【歯科衛生士×3児ママ】赤ちゃんのハイハイと「噛む力」「口の発達」のつながりを解説

体とお口の関係

はじめに:ハイハイ期は口育のゴールデンタイム

赤ちゃんがハイハイし始めると、多くのご家族では「そろそろ歩くかな?」「動くのが早くて安心」といった声があがります。

でも実は、ハイハイ期こそ「口の発達(※口育)」、つまり噛む・飲み込む・話す土台作りに最も重要な時期だということを、どれくらいの方が知っているでしょうか。

歯科衛生士として30年以上たくさんの子どもたちを診てきた経験と、三人の子育てを通じた経験を踏まえ、医学的な根拠と我が子のリアルな実例、よくある疑問にしっかり答えます。

ハイハイし始めた赤ちゃんのママ必見の記事です。赤ちゃんとたっぷり遊んでください。

口育(こういく)」とは、日本口育協会が提唱する、0歳からの乳幼児期からお口周りの筋肉や機能を正しく発達させ、呼吸・嚥下・咀嚼・発音といった口腔機能を健全に育てる健康管理術です。哺乳、離乳食、指しゃぶりなどの口腔周囲筋のケアを通じて、正しい歯並びや健康な全身発育を生涯にわたって維持することを目指します。

赤ちゃんがハイハイしている写真。まだ歯が生えてくる前からできるおくち育てがあります。

日本口育協会:口育の意義

【イラスト付き】赤ちゃんの「ハイハイ」が、一生の“食べる力”を育てる理由

移動手段に過ぎないハイハイですが、実は「噛む力」や「飲み込む力」といった「口育(こういく)」において、非常に重要な役割を担っています。

その意外なつながりを、ステップを追って見ていきましょう。

日本離乳食・小児食育学会:ハイハイとお口の育ちの関係

全身の連動が「お口の筋肉」を呼び覚ます

ハイハイは、自分の体重を腕で支え、顔を正面に向けたまま進む全身運動です。この「床をグッと押して体を持ち上げる」動作は、赤ちゃんにとって最高の筋トレです。そう思うと赤ちゃんのハイハイも頑張れー!!って応援したくなります。

実はこの全身運動が、お口の筋肉と深く関係しています。

顎を支える「不思議な骨」と筋肉のつながり

食べ物をモグモグする筋肉は、顎の周りだけで完結しているわけではありません。 顎の下には「舌骨(ぜっこつ)」という、どこにもつながっていない不思議な骨があり、その骨がブランコのようにたくさんの筋肉(舌骨筋群)からぶら下がっています。

  • ハイハイの姿勢がカギ: 顔を正面に向けて進むとき、首の前側の筋肉がしっかりと引き伸ばされ、この「舌骨」周りの筋肉の動きに刺激を与えます。

  • 飲み込む力の土台: ここが鍛えられることで、ベロを正しい位置に持ち上げたり、顎を安定させたりする力が養われていきます。

  • 不足するとどうなる?: ハイハイが不足して首や背中の筋肉が未熟だと、重い頭を支えるだけで精一杯になってしまいます。お口を閉じるパワーが残らず、「お口ポカン」や丸飲みの原因になってしまうこともあるのです。

首や肩の筋肉は、顎や舌を動かす筋肉と密接に連動しています。体幹がしっかり育つことで、食べ物をしっかり咀嚼するための「お口の土台」が完成するのです。全身の運動のハイハイが食べるということにもつながっている脳の仕組みのイラスト

「正しい姿勢」が食事の質を変える

ハイハイで体幹が育つと、腰が座ったときの姿勢がピシッと安定します。食卓で体がグラグラしてしまう子は、噛むことに集中できず、丸飲みや偏食の原因になることも考えられます。

赤ちゃんにとって、座るという動作は腹筋と背筋のバランスで、腰を支えて上半身を安定させる体の成長には欠かせないステップです。

ハイハイによって「正しい姿勢で座る力」が備わることで、唇や舌を自在に動かせるようになり、結果として「飲み込む力(嚥下)」がスムーズに育ちます。

【体験談】3人の子育てで痛感した「ハイハイの質」とお口の育ち

歯科衛生士として多くのお子さんを見てきた私ですが、自分の3人の子供たちの成長を通して「運動の質とお口の発達」の深いつながりを身をもって実感しました。

三者三様の成長記録をご紹介します。※以下のエピソードは、あくまで私個人の育児体験に基づく感想です。

長男:ハイハイ期が短く、食べることに苦労した日々

 第一子の長男は、ハイハイを卒業してすぐに歩き始めた「自慢の息子」でした。でも、離乳食が進むにつれ、ある異変に気づきました。

ハンバーグのような柔らかいものは食べられますが、薄切りの豚肉や、少し繊維のあるほうれん草などは、いつまでも口の中に残ってしまい、最後には「ベー」と吐き出す日々が続きました。

当時の私は「好き嫌いかな?」と思っていましたが、今思えば、椅子に座る体幹が弱く、顎をしっかり閉じて「すりつぶす筋力」が足りていなかったのかもしれません。

食事中にすぐ姿勢が崩れて、机に肘をついたり、足をぶらぶらさせていたのも、今考えればサインの一つでした。

次男:家中を駆け回る「ハイハイ名人」は食欲も旺盛

 次男は、お兄ちゃんを追いかけるように「ハイハイのスピード」が速かったのを覚えています。リビングの端から端まで、まるで競走馬のように力強く床を蹴っていました。

その成果は、離乳食完了期に現れました。手づかみ食べをさせても、前歯で「ガブッ」と一口分を噛み切り、奥歯で「モグモグ」とリズムよく食べれる様子が気持ちよかったです。

お口を閉じる力(口輪筋)も強かったので、お茶を飲む時も口角からこぼれることがほとんどなく、食後の片付けが本当に楽でした。「全身を動かすことが、こんなにもお口の器用さにつながるのか」と、衛生士としても母親としても驚かされた瞬間です。

長女:1歳すぎまで続けた「じっくりハイハイ」が最高のギフトに

末っ子の長女は非常に慎重派でした。1歳2ヶ月を過ぎても歩き出さず、周囲からは「まだ歩かないの?」と心配の声もありました。

しかし、彼女はお兄ちゃんたちを追いかけ、じっくり時間をかけてハイハイを楽しんでいました。

親として焦る気持ちもありましたが、「今は体とお口を鍛える大切な時間」と信じて見守ることに。その結果、

  • 唇の閉じ方や舌の動きが自然。

  • 離乳食の初期から「モグモグ・ゴックン」の動作がスムーズ。

と、お口の機能が理想的な形で整ったのです。

「早く歩くこと」よりも大切なこと

3人を育てて確信したのは、「ハイハイの期間が長い = 発達が遅い」のではないということです。

むしろ、ハイハイをたっぷり積み重ねる時間は、一生使う「正しく噛み、飲み込む力」をじっくりと養うための、黄金のトレーニング期間ということです。「まだ歩かないな」と不安になる必要はありません。

そのハイハイの一歩一歩が、お子さんの健やかな歯並びと、おいしく食べる未来を作っているのです。

赤ちゃんの笑顔のハイハイの写真。たくさんハイハイをすると腕や連携する神経とつながり食事の腕を動かすことに繋がります。

【実践編】家でできる「ハイハイ&口育」環境づくり

マットやラグは大きめに敷く
フローリングは滑りやすく冷たいので、リビングや子ども部屋全体に安全なマットを敷くのが基本です。赤ちゃんが四方八方に自由に動けるだけで運動量は大幅アップ。
おもちゃは少し遠く、目標をつくる
赤ちゃんが「行きたい!」「触りたい!」「遊びたい!」と思うおもちゃやモビールを、手を伸ばしただけでは届かない所に配置。前進しようとすることがハイハイやずりばいが自然に増えてきます。
親が床に座り、赤ちゃん目線で応援
親自身も一緒にマットに座って「がんばれ!」「こっちだよ」と声掛け。親子で顔を合わせることで、「動きたい・やってみたい」と思わせる“心理的安全基地”になります。

ハイハイの時に気をつけたいリビングでの注意のポイントのイラスト。興味のあるぬいぐるみをハイハイしないと届かない位置に置いたり、柔らかいボールを追いかけるようにしたり、滑り止めのラグを大きく敷いたり、家具の角は丸くしたり工夫しているのがわかりやすくしてあります。

【歯科衛生士の現場エピソード】現場で感じる「全身運動」とお口の関係

歯科衛生士として多くの検診に携わる中で、日頃からたっぷり体を動かしているお子さんには、ある「共通の傾向」があると感じています。

たっぷりハイハイした子の特徴

あくまで現場での観察に基づくものですが、ハイハイなどの全身運動を十分に経験してきたお子さんは、お口の機能がバランスよく整っている印象を受けます。

  • 姿勢の安定感: 椅子に座った際、背筋が伸びて姿勢が安定している。

  • お口の閉じ方: 唇が自然に閉じ、きれいな鼻呼吸ができている。

  • 食べる様子: モグモグとリズムよく、上手に咀嚼(そしゃく)できている。

最近の相談現場で増えているお悩み

一方で、スマホやベビーカー移動が増え、全身を動かす機会が減っているお子さんには、以下のような相談が寄せられる傾向にあります。

  • 「固い食べ物をいつまでも嫌がる」

  • 「常に口がぽかんと開いている」

  • 「お茶を飲む時に口の端からこぼれやすい」

これらは単なる癖ではなく、ハイハイで鍛えられるはずの「体幹」や「お口周りの筋力」が育つチャンスを逃している可能性も考えられます。

「早く歩くこと」よりも大切なこと

歯科医院での健診でお伝えしたいのは、「歩くのが早い=発達優秀」とは限らないということです。

大切なのは「どれだけ体を使い込んだか」という運動の質。ハイハイというステップをじっくり踏むことは、一生の「食べる力」を積み上げる宝物の時間です。

「まだ歩かないな」と焦る必要はありません。そのハイハイの一歩一歩が、お子さんの健やかな歯並びと、おいしく食べる未来の土台を作っていきます。

【Q&A】よくある疑問とアドバイス

Q1) ハイハイ嫌いでも、噛む力は育ちますか?
A. 必ずしも長くハイハイしなくても、ゴロゴロ遊び・手押し車・うつ伏せ寝返り体操など日常の全身運動で代替可能。親が楽しそうに誘ったり、無理せず興味を引き出しましょう。

Q2) 歩き出しが遅いのは大丈夫ですか?
A. 長いハイハイ期は体と口両方にメリット大きいです。焦らず「自分から動くきっかけ作り」が大切です。あまり遅くて心配なら専門の機関にご相談くださいね。

Q3) 早く歩くと逆に損?
A. 損ではありませんが、ハイハイ不足で体幹や口・顎の力が育たないという相談をうけることもあります。歩行後も家で寝転んだり四つん這い体操をミックスしましょう。

Q4) 早産・発達ゆっくりでも“口育”できる?
A. 個性や成長パターンを尊重して、医師・保育士・衛生士と相談しながら段階的運動経験を積んでその子のペースにあった楽しみながらできる運動をしていきましょう。

【応用編】家庭で楽しむ「口育あそび」5選

・ぬいぐるみ手遊び(前後・左右・真上に誘導)
・“トンネルくぐり”レース(大きな箱やクッションを並べ、手足で進む)
・“おはよう体操”(寝返り・四つん這い・マット転がりセット運動)
・親子で顔を合わせてのベロベロだんご遊び(舌や口を大きく動かし笑いあう)
・食事前に“お口を閉じる”チャレンジタイム(鼻呼吸の練習)

著者の子ども達が使っていたぬいぐるみの写真。ハイハイをしたくなるように少し遠くにお気に入りのぬいぐるみを置いて遊んであげました。

まとめ:ハイハイは“噛む・飲む・話す”の礎

ハイハイは子どもの「噛む・飲む・話す」力を育てる隠れた土台です。

歯科衛生士として歯科医院で診る一方で、3兄妹を育ててきて実感したのは、ハイハイで腕・肩・背中・首の筋肉のバランスがよく育ち、顎とお口の安定感が自然と身につくということです。

長男のハイハイ期が短く、後の座り姿勢に影響を感じた経験から、次男・長女には環境を整え、遊びの中でたっぷりハイハイを促しました。その結果、二人は食事の姿勢や発音がスムーズに整うのを実感していきました。

ハイハイで育つ全身の筋力が、お口の安定に繋がることを身をもって実感しました。ただ見守るだけでなく、工夫次第でリビングが楽しい訓練場になり、親子で笑顔溢れる時間を過ごせました。

歩行の早さより「たくさん動いて楽しい!」 経験が、将来の歯並び・健康・食事習慣に大きなプラスになると信じています。

この記事は、歯科衛生士・口育士としての経験に基づく情報提供を目的としています。個別の診断や治療に代わるものではありません。気になる症状がある場合は、必ずかかりつけの歯科医院を受診してください。

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