はじめに
「テレビに夢中になると、いつの間にか口が開いている」「小学生になっても食べこぼしがなかなか減らない」……。
日々の生活の中で、お子さまのそんな姿に「ちょっと気になるな」と感じたことはありませんか?
実はそれ、単なる「癖」や「不器用さ」で片付けられないものかもしれません。
近年注目されている「口腔機能発達不全症(こうくうきのうはったつふぜんしょう)」という、お口の機能が正しく育っていないサインの可能性があるのです。
私は歯科衛生士として30年以上のキャリアを持ち、これまで多くのお子さまの口腔ケアに携わってきました。しかし一歩家へ帰れば、3人の子どもを育てる一人の母親でもあります。
実を言うと、プロとして働いている私の子供たちでさえ、幼い頃には「いびき」や「口呼吸」、「ひどい食べこぼし」といった症状を抱えていました。
「専門家の家でもそんなことが起きるの?」と意外に思われるかもしれませんが、現代の柔らかい食事や生活スタイルの変化により、どの子のお口にも起こりうる身近な問題なのです。
「うちの子はどうかな?」と不安に思う保護者の方へ。
この記事では、専門知識と私自身の育児経験に基づいた「家庭でできるチェック法」と「今日から取り組めるお口のトレーニング」を分かりやすく解説します。
お子さまの健やかな成長のために、まずは現状を知ることから始めてみましょう。

「口腔機能発達不全症」とは?なぜ今、注目されているのか
食べる・話す・呼吸する力の「育ち」が遅れている状態
「口腔機能発達不全症」とは、簡単に言うと「お口の筋力や使い方の発達が、年齢に対して追いついていない状態」を指します。
特別な病気があるわけではないのに、「上手に噛めない」「飲み込みがスムーズにいかない」「鼻呼吸ができず口が開いてしまう」といった症状が現れます。
平成30年(2018年)に健康保険が適用される正式な病名となりました。
これは裏を返せば、国が「放置しておくと将来の健康に大きな影響を及ぼす問題である」と認めたということでもあります。
この疾患は平成30年に正式な病名として認定され、近年その認知が広がりつつありますが、まだ一般の保護者や一部の歯科医療従事者の間でも十分に浸透していないのが現状です。

現代の子どもたちを取り巻く「お口の危機」
なぜ今、この症状が増えているのでしょうか。臨床現場で感じるのは、生活スタイルの変化です。
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食の軟化: 噛み応えのある食材が食卓から減り、噛む回数が激減した。
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姿勢の悪化: スマホやゲームの普及により、猫背でお口周りの筋肉が緩みやすくなった。
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遊びの変化: 全身を使う外遊びが減り、お口を支える「体幹」が弱くなった。
お口の機能は、放っておけば自然に育つものではなく、日々の生活の中で「使って育てる」ものへと変わってきているのです。
これらの症状は、日常生活の中で「ちょっと気になるな」と思う程度のことが多く、本人に自覚がない場合がほとんどです。そのため、家族や周囲の大人が早く気づいてあげることが大切です。
もしかして?日常生活に隠れた「お口のSOS」サイン
「うちの子は大丈夫」と思っていても、実は小さなサインが出ていることがあります。ここでは代表的な症状と、私が3人の子供たちの育児中に直面した「リアルな事例」をご紹介します。
よくある代表的な症状
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お口ポカン: 何かに集中している時に口が開いている。
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食べこぼし: 5歳を過ぎてもクチャクチャ音を立てたり、口からこぼしたりする。
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発音の不明瞭: 「サ行」や「タ行」が聞き取りにくい。
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いびき: 子どもがいびきをかくのは、実は「当たり前」ではありません。
きっかけは保育園の先生の一言
我が家の長男が保育園の先生から「お子さん、お口が開いていることが多いですね」と言われたことでした。
最初は「癖かな?」くらいにしか思っていませんでしたが、食事の食べこぼしもあったのでもしかしてこれもお口が開いていることと関係しているのかもと思い歯科健診で相談しました。
これが将来的な歯並びや発音、さらには全身の健康にも影響する可能性があると知り、歯科医院に受診し、検査や指導を受けました。

こちらの記事も参考に:おくちぽかんのチェックリスト
【体験談】歯科衛生士の私が「ハッ」とした、我が子のサイン
実は、我が家の3人の子どもたちも三者三様でした。
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長男の場合: 離乳食の時から「食べこぼし」が多く、保育園の先生からも「お口が開いていますね」と指摘されました。当時は「のんびりした性格だからかな?」と思っていましたが、実は舌の筋力が弱く、お口を閉じるのがしんどかったのです。
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次男の場合: 寝ている時の「いびき」が酷い時期がありました。最初は「疲れているのかな」程度に考えていましたが、よく観察すると日中も「口呼吸」がメインになっていました。
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長女の場合: 歯が生えるのが9ヶ月と遅く、さらに前歯の噛み合わせが浅いのが気になりました。
歯科衛生士である私ですら、自分の子どものこととなると「成長の個人差かな?」と見過ごしそうになったのです。
もしあなたが「少し気になる」と感じているなら、その直感はとても大切です。
親子で確認!口腔機能発達不全症「早期発見チェックリスト」
まずは、ご家庭でお子様の様子を観察してみてください。以下の項目に3つ以上当てはまる場合は、一度お近くの歯科医院で相談してみることをおすすめします。
家庭でできる「お口の育ち」チェック
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[ ] 常に口が開いている(集中している時や寝ている時)
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[ ] 食事中にクチャクチャと音がする、または食べこぼす
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[ ] 飲み込む時に、顎(あご)に梅干しのようなシワができる
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[ ] 柔らかいものばかりを好み、噛むのを嫌がる
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[ ] 発音がはっきりせず、滑舌が気になる
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[ ] 猫背で姿勢が悪い、または食事中に足がぶらぶらしている
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[ ] 朝起きた時に口の中が乾燥している、または口臭が気になる
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[ ] 指しゃぶりや爪噛みの癖が続いている
歯科医院で行う専門的な検査とは
相談に行くと、歯科医院では以下のような専門的な診査が行われます。
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口唇閉鎖力の測定: 専用の機器(リップルくん等)を使い、お口を閉じる力を数値化します。
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舌圧の測定: 舌が上顎にしっかり押し付けられているか、力を測ります。
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口腔内写真: 歯並びだけでなく、舌の裏のヒダ(舌小帯)の長さや、飲み込む瞬間の動きを確認します。
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食事観察: 実際に何かを食べていただき、咀嚼や嚥下のスムーズさを診ることもあります。
最近では「※口育(こういく)」に力を入れている歯科医院が増えています。検査は痛みもなく、遊びの延長のように進められるので安心してください。
※「口育(こういく)」とは、日本口育協会が提唱する、0歳からの乳幼児期からお口周りの筋肉や機能を正しく発達させ、呼吸・嚥下・咀嚼・発音といった口腔機能を健全に育てる健康管理術です。哺乳、離乳食、指しゃぶりなどの口腔周囲筋のケアを通じて、正しい歯並びや健康な全身発育を生涯にわたって維持することを目指します。
歯科医院でのサポート
歯科医院では、生活指導やトレーニングメニュー、必要に応じて矯正治療などを行います。
ガムトレーニングや「あいうべ体操」、トレーニング器具など、子どもが楽しみながら続けられる方法があります。
身体の育ちも大切です。筋力が口の機能を成長させます。外遊びをたくさんして、たくさん笑ってお口を使っていきましょう!

こちらの記事も参考に:外遊びとあごの発育の関係
家庭でできるトレーニング
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よく噛む食事を心がける(おにぎり、野菜スティックなど)
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姿勢を正して食事をする
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お風呂でぶくぶくうがい
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吹き戻しや風船遊びで口の筋肉を鍛える
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「※2あいうべ体操」や顔じゃんけん
私の子ども達3人は、ガムトレーニングが大好きで、毎日20分ほどテレビを見ながらガムを噛む習慣ができました。
最初は片方でしか噛めなかったのが、数ヶ月で左右バランス良く噛めるようになり、唇の筋力検査の再検査にも「数値が上がっているね!」と褒めてもらえました。
※2「口腔機能発達不全症」とは厚生労働省が2018年に保険診療として認可した、18歳未満の子どもの「食べる」「話す」「呼吸する」といった口の機能が十分に発達していない状態です。噛めない、口呼吸、歯並びの悪さなどの症状があり、早期発見・訓練が重要で、歯科での治療対象となります。 実際の検診や来院するお子さんを診てもお口の機能が育ちきっていないなあと感じることが多いです。
保護者のサポートがカギ
子どもは「楽しい」「できた!」という成功体験が大好きです。
無理にやらせるのではなく、遊びや日常生活の中で自然に取り入れることが、継続のポイントです。
私自身も、子どもと一緒に「あいうべ体操」をしたり、食事の時間を楽しむ工夫をすることで、親子のコミュニケーションも深まりました。
まとめ:お口の健康は、一生モノのプレゼント
口腔機能発達不全症」という名前は少し難しく聞こえますが、実は「子どもの未来をより良くするためのチャンスのサイン」です。
お口の機能が正しく育つことは、単に歯並びを整えるだけではありません。
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深い呼吸ができるようになり、睡眠の質が上がる。
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正しく噛むことで、脳の発達を促し、肥満を予防する。
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はっきりした発音で、自分の気持ちを自信を持って伝えられる。
これらはすべて、お子様が生涯にわたって健康で幸せに過ごすための「基礎」となります。
30年のキャリアを経て思うのは、保護者の方の「ちょっとした違和感」は、最高の診断ツールだということです。
もしリストに当てはまることがあっても、気づけた今が、最速のスタートラインです。
まずは今日から、食事中の足元をチェックしたり、一緒にお風呂で「あいうべ体操」をしたりすることから始めてみませんか?
お口の育ちについて不安があれば、ぜひお近くの「口育」を大切にしている歯科医院を訪ねてみてください。
専門家と一緒に、お子様の素晴らしい成長をサポートしていきましょう!
もし気になる症状があれば、迷わず歯科医院に相談しましょう。専門家のサポートと家庭での取り組みで、子どもの健やかな成長を一緒に見守っていきましょう。

本記事は、実際の体験談と歯科医師の専門家の知見をもとに執筆しています。お子さんの症状や状況によって対応が異なる場合がありますので、必ず専門のかかりつけ歯科医師に相談してみてくださいね。


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